オフィスの同じ空間で顔を合わせて仕事をするのと比べて、リモートワーク環境ではコミュニケーションが希薄になりがちだ。
オフィスに集まって働くチームのコミュニケーションには2種類ある。双方の意思によって行われるものと、特に意図せず醸し出された情報を特に意図せず感じ取るものだ。私は前者をアクティブ、後者をパッシブなコミュニケーションと呼んでいる。アクティブなコミュニケーションはイメージしやすく、口頭での会話やチャットのやり取りがそれにあたる。ではパッシブなコミュニケーションとは何なのか。
パッシブなコミュニケーション
それは、例えば以下のようなものである。
- ある同僚の顔色や声色から、なんとなくその日の体調がわかる
- ある同僚が考え事をしている時間が多くて、壁打ち相手になったほうがよさそうに感じる
- ある同僚が息抜きにコーヒーを飲んでいて、今なら話しかけても大丈夫そうと思える
一言で抽象化するなら「その人の挙動や雰囲気から周囲に届く情報」だろうか。パンデミックを機にリモートワークとなった人は、過去にオフィスで働いていたときのことを思い返すと、そういった雰囲気から多くの情報を得ながら働いていたのではないか。
では、リモートワークにおいてはどうか。これらのパッシブなコミュニケーションは、オフィスに集まって働いていたときには無意識に成り立っていたはずだ。一方でチャット中心のリモートワークでは、これらのパッシブなコミュニケーションから本来得られる情報は殆ど失われてしまう。
リモートワークに必要な覚悟
失われたパッシブなコミュニケーションをアクティブなコミュニケーションで補う
オフィス空間に自然に存在していたパッシブなコミュニケーションによる情報伝達が失われたリモートワークにおいては、その重要さを理解し、アクティブなコミュニケーションによってそれを補う努力をする必要がある。その覚悟を持たずにリモートワークをするというのは、「単に自分にとって快適な環境に居て、コミュニケーションのクオリティは下がっただけの人」になるということである。「通勤時間がなくなって嬉しい」みたいな理由でリモート環境を選択している人はそうなっていないか振り返ってほしい。アクティブなコミュニケーションでさえもリモートワークにおいてその難しさは増し、例えばチャットに書く文章は解釈が一意になるよう推敲したり、相手の文章から正しく意図を汲み取ることに気をつけたりする必要がある。さらにそこに加えて、失われたパッシブなコミュニケーションを補って初めて、「オフィスに集まって仕事をするのと同じ水準のコミュニケーション」を目指せるのだ。
オフィス空間におけるパッシブなコミュニケーションは、直接的に業務に関わることだけではなく、例えば服装や持ち物、仕事で使う機材などからその人の趣味や嗜好などを感じることができ、それはチームビルディングや新メンバーのオンボーディングの過程で役に立ってきた。一方でリモート環境に新しく参画したメンバーが半年経っても同僚の深い人となりをあんまりわかっていない、みたいな状況も珍しくないだろう。これもまた、本人と周囲の両方が意識的にパッシブなコミュニケーションの欠損を埋める努力をしないと、チームのモメンタムが上がらない大きな要因になりうる。
どうすればいいのか
「失われたパッシブなコミュニケーションをアクティブなコミュニケーションで補う」とは、具体的にどのような行動を指すのか。シンプルに表現すると、「適切な自己開示」と「他人に興味を持つこと」であると言える。
適切な自己開示とは、パッシブなコミュニケーションにおいては自身から無意識に醸し出され、周囲がそれを読み取っていたような情報を、自ら意識的に発するということである。いわゆる分報のような場所を使ってもいいし、チームのチャンネルを使ってもいいと思う。パッシブなコミュニケーションひとつひとつの情報量はそれほど多くない。上でパッシブなコミュニケーションの例として挙げたものをチャットでの自己開示で補うとしたら、「朝から腹痛い」「うーん」「コーヒー休憩」で十分なこともあるだろう。
他人に興味を持つとは、他人の自己開示に意識を向けそこから情報を得るということである。また、ただ受け取るだけではなく、適切にレスポンスを返すことで、アクティブなコミュニケーションに活力をもたらし、ひいてはチーム全体のモメンタムを高めることに繋がる。同僚の分報に参加するとか、いろんなチームのチャンネルに参加してみるとか、そういうアンテナを広く張ることが他人に興味を持つ第一歩となる。
才能
ここまで読んで、「なんだその程度のことか」と感じたあなたには、リモートワークの才能があります。引き続きコミュニケーション水準を高く保ち、チームのモメンタムを高めていってください。